箕輪 克彦 支配人(シネマノヴェチェント)のインタビュー

シネマノヴェチェント 箕輪 克彦 支配人

シネマノヴェチェント 箕輪 克彦 支配人 KATSUHIKO MINOWA

日大芸術学部映画学科卒業後、テレビの下請け会社に勤めながら、川崎市「読売ランド前」でシネマバーをオープン。建物の建て替えのため閉店し、2015年、日本一小さな劇場「シネマノヴェチェント」を開業。(相鉄本線「西横浜駅」から徒歩10分)

映画業界で常識とされてきた取り組みから無駄を削いでいった

映画好きが高じて、他の仕事をやりながらお金を稼いで、川崎にある親の持ちビルで自分の映画館を作ったのがスタートでした。それで映画工業組合に入りたかったのですが、これがなかなか敷居が高くて(笑)!当時は組合に入るためには、映画館は休んじゃいけないとか、椅子は固定じゃないといけないとか、常識とされるルールが色々あったんです。その時は週末だけの営業だったので、これを機に平日も営業することにして申請しました。そのおかげで大手の作品を借りられるようになって、結果、良かったですね。でも、そのうちに時代も変わってきて、小さなシネコンがポツポツ増えてきて、そういうところは自由に休みを取っているし、椅子も固定じゃなかったりと、「映画館はこうあるべし」みたいな概念が変わってきました。自分もここをオープンした時は、どこか映画業界の常識とされることに囚われて毎日営業していたのですが、そんな時代の変化もあって、「まぁ、いいか!」と休み始めたんです。そうやって自分で続けていくためにも無駄をどんどん削っていきました。

西横浜に移転を決意、毎週末、映画上映後にトークショー、サイン会のイベントも

自分の映画館では、映画を上演するだけでなく、バースペースを併設して、監督や役者を呼んで2時間くらいみっちり自由に語っていただくというトークイベントやサイン会をしました。トークショーの後はバースペースで飲むというフォーマットがお客様にどんどん根付いてきたんです。こうして、うちの狭さを逆手にとって、コアな映画好きなお客様にとっては天にものぼるように喜んでもらえる企画をやりました。監督や役者にとっても、好きなだけ喋って熱心な映画ファンと交流できて嬉しい、というウィンウィンの感じでね。でも、建物の建て替えもあったことと、10坪くらいのところでやっていたので、映写室が狭く、フィルムの扱いが難しくなってきて、いよいよ移転しようということになりました。「これまでと家賃は変えず、でも場所は広く」と条件が厳しい中で、西横浜にちょうどいい物件に出会えたんです。最初の映画館では家族にも手伝ってもらっていましたが、新しい映画館では自分一人で運営しつつ、毎週末、監督や役者などゲストを招いて映画上映後にトークショー、サイン会も開催も続けました。だからこそ、そんな映画館を続けるために自分を大事にしなきゃと決意しました。そのためにはお客様にこの映画館に合わせてもらわなきゃいけない(笑)。それで思ったことをパーパー言っちゃうから、勘違いされて離れる人もいますね。自分でも言い過ぎなことはよく分かっているから謝るけどね(笑)。

フィルムは重いし手間暇かかるが、常に触れていたい

1本のフィルム映画は複数のフィルムに分かれていて、映写技師はそれを2台の映写機で切り替えたように見せないようにやるのが昔ながらの上映なんだよ。作業手順が多くて、ちゃんとやるのは意外と難しいところがあります。瞬きをしたら、切り替えしの絶妙なタイミングを逸してしまったというような失敗は色々やってきましたね(笑)。フィルムを1、2、3、4と順番に上映をしないといけないのを、1、2、4、3とやっちゃったり。それで話が上下しちゃってたり(笑)何度も見ている人には「あれ?これ、ストーリーが飛んじゃってるな」と気づかれてしまいます。それに、フィルムの巻き方には正巻きと逆巻きがあるのね。1つの作品で全部同じ巻きかただったらいいのですが、1つだけ逆巻きだったりすることがあるんですよ。それを気づかずにやるとどうなるかというと、反転して上映されちゃう(笑)。だから本番前に事前試写もしなきゃいけないんです。でも、たくさん作品があってそれを日替わりで上映するとなると、全部は確認できない日もあります。それで本番で失敗をやって、その都度、あぁっ!と心臓が飛び出るような経験はたくさんありますよ。もっとすごいのが、上映が終わったら、フィルムを巻き戻す作業があるのですが、巻き戻している時に、ゆっくりトイレに行っていると、リバインダーという巻き戻しの機器が暴走して、映写室中にフィルムが散乱としていて愕然としたこともありましたね。それでもフィルムが良いと思うのは、アナログだから何かあった時に自分で原因がわかること。だから、こうすればいいかと対応の仕方が学べます。だけどデジタルの場合は、機械に詳しくないと厳しいでしょうそもそもフィルムは写真を投影してるから、デジタルとは全然違うですよ。デジタルの利便性やいいものがたくさんあることは知っているけれど、自分は常にフィルムに触れていたいんです。フィルムは回せば回すほど傷が付いたり、切れたり、確実に劣化して最後はジャンク品になる。人間と一緒で「これがこの作品です」と言えるものだと感じます。フィルムは大きいし重いし手間暇かかるけれど、だからこそ手にとった時に、映画制作に関わったたくさん人たちや時間を感じるんですよね。

興味がない映画でもたくさん観ないと名作には出会えない

基本的に、平日はお客様が少ないので、営業時間を短くします。もっと言ってしまうと、平日は本当はやめようかなと思ったことも(笑)。それでも近所だけでなく、遠方からわざわざこここに観に来る人も多いんです。自分でも知らなかった作品をスクリーンで観たいからと言ってもらえるんです。そういう、お客様の映画が好きという気持ちはリスペクトしています。自分は上映作品を全部観ている訳ではなく、また、自分がどう感じたかとはどうでもいいと思っています。何がいいと思うのかはパーソナルな部分だから、本人がどう感じるかということが大事なんですよね。それに、自分が興味のないものでも色々観ないと面白いものも分からないし出会えないですからね。1つの名作はたくさんの駄作があるから出会えるんですよ。自分も、「どんな映画がオススメですか?」とよく聴かれるけれど、それは他力本願だよね。自分が面白いと思うのが、人と同じかといえば違うでしょう。とは言っても、うちのアルバイトも、最近ようやく映画好きな子が入ってきて、たまに自分のオススメをみせることもありますよ。映画好きってそういうことをしたがるところがあるんですよね。でも「あんまり面白くなかったです」なんて言われて、このヤロー!ということもあるね(笑)。これは絶対好きだな、と思ってみせても、これが全然当たらなかったり。大体二人にみせると、好き嫌いが二手に分かれることが多いですね。

次世代に残そうとするのは柄じゃない、自分一代で日々をやりきる

自分はフィルム映画が好きでずっとやってきていますが、どんなお客様が来て欲しいとかないんです。でも、長いことうちに来てくれている常連の方は、独り身でお金と自由になる時間を持っている人がわりと多いかな。自分はいつ死んでもいいように、やり残したことがないように、やれることはやっておく、したいことはする、そういう気持ちでやっています。自分が死んだ後にこの映画館がどうなるかはわからないけれど、生きている間は楽しみたい。かつては若いやつに託そうかな、と少し思ったこともありましたが、そんな方向で頑張ってしまうのは自分の柄じゃないと思って。自分の想いを押し付けても、良い結果にはならないでしょうから。自分一代でやって、自分で全部責任を持ってやると決めてからは、清々しいし、日々、自分がやりたいことをやってしまおうと潔く納得できています。地域の方にメッセージを送るとすれば。お互いに長生きしましょう、かな(笑)。

 

※上記記事は2023年10月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。

シネマノヴェチェント 箕輪 克彦 支配人

シネマノヴェチェント箕輪 克彦 支配人 KATSUHIKO MINOWA

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  • 出身地: 神奈川県川崎市
  • 趣味: 温泉

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