川口 ひろ子 オーナー(ヨコハマアパートメント)のインタビュー

ヨコハマアパートメント 川口 ひろ子 オーナー

ヨコハマアパートメント 川口 ひろ子 オーナー HIROKO KAWAGUCHI

出版社でライターとして活動。2009年に施工した「ヨコハマアパートメント」のオーナー。夫の遺志を継承し運営を行う。

夫の明確なコンセプトと想いをもとに施工されたヨコハマアパートメント

亡き夫が若いアーティストが建物内で活動、作品の展示、作業をしながらなるべく安く住めるような賃貸集合住宅を作りたいと明確なイメージと想いを持って造ったのがこのヨコハマアパートメントです。建築会社と施工を進める中で夫は癌になってしまい、余命も知らされたのですが、それでも施工を続け、完成を見届けた後、永眠しました。

そんな夫の想いが反映されたこの建物は、どんな大きさの作品でも搬入、搬出ができるようにと作られていて、天井高5メートルもある吹き抜けの共有部分の広場に共有キッチンがあり、作品が映えるような明るさになるよう工夫されています。

今年15周年・入居者と月1回の運営委員会と年中行事を運営

1階の共有部分の上は、4戸の集合住宅になっています。施工して今年15年を迎えますが、今も建築家の方などが取材や見学に来られます。運営は建築に関わってくださった設計事務所さんが事務スタッフと共同で運営に携わってくれていて、月に1回入居者さんと集まって運営委員会を開き、決まった年中行事をもとに、みんなでアイデアや意見を出し合いながら年表を作って埋めています。その中で、恒例ルールを絶対とするのではなく「これは大変だったから今年はやめよう。その代わりにボードゲームとかモルックをやろう」とか、その時々で話し合いながら変更・アップデートしています。入居者の方はアーティストに限りませんが、だんだんと建築関係の若い方が増えてきましたね。見学に来られた方からは「住んでみる前に泊まりたい」「空いたら連絡ください」とお声をいただいています。

地域に開かれた建物の構造が交流を生み、人を育てる

実は、この建物は住みづらくもあるんです。隣とくっついている部分もあるし、1階の共有部分は周囲にむけて開放されていますし、声もよく通ります。建物が密閉されていないからこそ、階段をガンガンと上がったり、洗濯物をちゃんとピンチでとめて干さないと飛んでいくとか(笑)、何時からは音は控えましょうとか、夜騒ぐと近隣の方にきちんと怒られるとかね。そういう経験をこの建物での暮らしの中で知ることは、彼にとってとても勉強になると思います。若い方だとそういうことに慣れていないですからね。建物を造ってくれた建築家さんは「放任も大事」とおっしゃっていて、公的な部分とプライベートのバランスは自然と保たれるような構造にしているのだそうです。みなさん、自然と何年か住むと、就職先が変わるなど転機で引っ越していかれます。そのネットワークが北は石巻、南は沖縄まで全国に広がっていて、そんな繋がりが私の宝物ですね。

 ライフステージや住む場所が変わっても緩やかなつながり

私のところを飛び越えて、ここを卒業していった方たちの中にはユニークな活動をしてる方も多くいらっしゃいます。一人は石巻の震災があった後に、私と一緒にボランティアに行ったのですが、そのまま現地に住み込み、設計事務所を起こし、さらに人を巻き込んでグループで本屋さんを作り運営しているんです。アパートメントにいた人たちは、みんなと一緒に何かやるということに長けているかもしれません。地域のコミュニティスペース「藤棚デパートメント」を運営している方も、ここに入居していた時は建築の学生でしたが、今では立科と横浜の2拠点でそれぞれを往復しながら地域起こしをしています。ここでしていたように、地域の方と一緒に作っていくのがとても得意な人ですね。また、元々会社員だった方が、今は沖縄と京都の2拠点で現地の人の交流や物を活かした旅館を運営しています。彼もネットワークづくりがすごく上手なんですよ。ヨコハマアパートメントでは、ただ暮らすだけではなく、運営に関わり、地域の方とのイベント活動を通して、一人じゃできないことも協力し合えばできるということが骨身にしみて気づいていけるんじゃないでしょうか。ここでの経験が学びとなってそれぞれの活動に活かされているならば本当に嬉しいです。

地域の町内会、学童を盛り上げる一助に・その人の大事な何かを繋げる

私が心を配っていることに、地域の町内会や私の子どもが大変お世話になった学童クラブのサポートがあります。学童のスケジュールに合わせて夏祭りやクリスマス会も開催してきました。地域のイベントといっても、「やるから来て欲しい」というだけではなかなか人は集まりません。その人にとって大事な何かとつなげられるような役割を、これからもやっていきたいですね。アパートの共有部分では一般の方も一緒に楽しんでいただけるワークショップなどイベントをやっていますので、どうぞ足をお運びくださいね。

 

※上記記事は2024年1月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。

ヨコハマアパートメント 川口 ひろ子 オーナー

ヨコハマアパートメント川口 ひろ子 オーナー HIROKO KAWAGUCHI

ヨコハマアパートメント 川口 ひろ子 オーナー HIROKO KAWAGUCHI

  • 出身地: 宮城県仙台市
  • 好きな本: 松下竜一さんの著書
  • 好きな映画: 今、ドキュメント映画を製作中
  • 好きな音楽: 童謡
  • 好きな場所: 自宅

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